ピヤノアキコ。~the best of solo piano songs~ (SACD-Hybrid)〜『矢野顕子着うた・着メロsearch』 矢野顕子

ピヤノアキコ。~the best of solo piano songs~ (SACD-Hybrid)
矢野顕子

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ピヤノアキコ。~the best of solo piano songs~ (SACD-Hybrid)
ピヤノアキコ。~the best of solo piano songs~ (SACD-Hybrid)

『ことばをそっと止める際の彼女の柔らかな空気の支配力。』
矢野顕子ほどカバーが面白いミュージシャンはいません。というのも、彼女のカバー手法は曲の徹底的な分解と斬新な再構築を見せるからです。単にアレンジを着替えるのではなく、原曲の核心となる要素を抽出し、それを元に譜割りを再構成して主題の行間を一層感じさせるように仕上げるので、全く新しいうたが誕生するのです。まるでうたの中にあったもう一つのうたを剥き出すよう。一方繊細さも奔放さも自由に描ける歌表現の自在さや、勿論有名なピアノプレイでの歌心豊かな音色・高度な技術力も、抽出した主題を表現する上で無くてはならない武器であり聴き所です。これらずば抜けた音楽的創造力と芸術的感性、そして熟練された手段が揃った矢野のカバーこそ、他では聞けない斬新さを味わえるんです。

例えば「しようよ」では詞中で伝えたい素直さを前面に出した譜割りです。そしてピアノや歌い方の中に詞の世界が一層息づいた日常風景を見せるのです。するとことばの活力は更に生き生きし始め、主題が原曲よりはっきりと浮び上がり、メッセージがしっかりとこちらへ届くのでした。
また「ばらの花」はことばが新しく音を決めます。まるでジャズのアドリブ。メロディから自由になったことばたちは自分で新しい音を五線譜に定めるよう。秩序だった原曲の淡々とした空気感と違い、感情意思をこめられたことばたちが表情豊かに独特の間合いを作り始めてゆくのです。全く別の曲になるとは当にこれですね。だからくるりの同曲とは違う聴き方、効用があるんです。分解と再構築のキュビズムのような、前衛的で新感覚の抽象画に面白みを覚えてくるときと似ていました。

「愛について」は一つ一つのことばにこめる表情から、友部正人の詩にある素朴さ、深さを再抽出し伝えてきます。例えば母と子、そして男それぞれの“生きてゆく”の歌い方にこめた力をきくと、表現者の深みに触れられました。行間の趣と詩の綺麗さで最もお薦めの曲です。
「ニットキャップマン」も素朴さの中に儚さと悲哀を感じさせ、淡々とした構成が非常に感動的ですし、詞へのめりこませる矢野のストーリーテラーとしての力量も聴き所です。

唱歌「椰子の実」のアレンジは非常に爽快。これぞ矢野の新解釈で軽快なピアノは小さな実の旅を小気味よく想像させる一方、島崎藤村による文語詩の響かせ方も斬新。椰子の実一つ、と最後にリフレインする中に新しい感覚で描かれた風景があります。

作品はどこをとっても素晴らしい楽曲ばかりなのです。

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